
「求人を出しても応募が来ない。ホームページには施設の写真を載せているが、それだけでは雰囲気が伝わっている気がしない」——湘南でデイサービスや訪問介護、特別養護老人ホームを運営する人と話すと、こうした悩みをよく聞く。人手不足は介護業界全体の構造的な課題であり、写真とテキストだけの求人票では、他施設との違いがどうしても伝わりにくい。
結論から言えば、介護施設が動画・SNS発信に取り組む価値は年々高まっている。ただし、やみくもに施設紹介動画を撮っても効果は薄い。何を撮り、何を撮ってはいけないかを整理してから始めるかどうかで、成果は大きく変わる。
この記事では、介護業界の最新の人材動向データと、SNS発信の実施率・効果に関する調査結果をもとに、湘南の介護施設がどこから動画発信を始めればよいか、そして利用者への配慮としてどこに注意すべきかを、制作者としての現場感覚を交えて整理する。
- 結論:介護サービス職の有効求人倍率は3.70倍(2026年6月・厚生労働省)と高止まりが続き、動画・SNS発信で施設の雰囲気を伝える意義は増している
- SNSで発信する事業所は3年で11.5%→16.3%に増加し、「採用に効果があった」と答えた割合も1年で16.8%→27.6%に急伸している
- 一方でSNS経由の就職者はまだ0.2%にとどまり、利用者への配慮を守りながら「今から始めても遅くない」段階にある
なぜ今、介護施設にも
動画発信が必要になっているのか
厚生労働省が公表している「一般職業紹介状況」によると、2026年6月時点の介護サービスの職業の有効求人倍率は3.70倍(パートを除く常用)で、営業職や商品販売職などと並んで高水準の職種のひとつになっている。求職者1人に対して3件以上の求人がある計算で、応募を「待つ」求人票だけでは選ばれにくい状況が続いている。
一方で、介護労働安定センターの「令和7年度介護労働実態調査」では、介護職員の離職率は12.4%で、全産業平均の14.2%を下回り、過去最低水準を維持していることも分かっている。つまり課題は「辞めてしまうこと」より「入口で選ばれないこと」に寄っている。この数字が意味するのは、いったん働き始めてもらえれば定着しやすい業界だからこそ、応募につながる最初の接点=求人情報や施設の見え方の勝負になっているということだ。
写真数枚とテキストの求人票では、職場の空気感、スタッフ同士のやり取り、利用者との距離感までは伝わらない。動画はここを補える数少ない手段のひとつだ。
介護施設のSNS・動画発信は
実際どこまで進んでいるか

同じ「令和7年度介護労働実態調査」では、採用活動として「SNSを活用して自事業所のアピールポイントを発信」している事業所の割合が、年々増えていることも示されている。以下に推移を整理する。
| 年度 | SNSで発信している事業所の割合 | 「採用に効果があった」と回答した割合 |
|---|---|---|
| 令和5年度 | 11.5% | – |
| 令和6年度 | 14.8% | 16.8% |
| 令和7年度 | 16.3% | 27.6% |
発信している事業所自体は全体の2割弱にとどまるが、発信している事業所の中で「効果があった」と感じる割合はこの1年でほぼ倍増している。まだ取り組んでいる施設が少ないからこそ、先に始めた施設の手応えが際立って伸びている段階だと読める。
ただし同じ調査では、現在の法人に就職した経路として「法人や施設が発信するSNS」を挙げた介護労働者は全体の0.2%にとどまるという数字もある。これは動画・SNSが無意味という意味ではなく、業界全体としてまだ「発信し始めたばかり」の段階であることを示している。だからこそ、今から取り組む施設には十分な伸びしろがある。
何を撮ればいいか
何を撮ってはいけないか

介護施設の動画発信で最初につまずきやすいのは、「利用者を主役にした施設紹介動画」を最初に狙ってしまうことだ。他業種以上に、まず考えるべきは撮っていいものと撮ってはいけないものの線引きになる。
撮りやすく、応募につながりやすい題材
- 職員インタビュー(この仕事のやりがい・1日のスケジュール・入職の決め手)
- スタッフ同士の休憩中の何気ない会話や雰囲気
- 施設の清潔感や設備、送迎車両などハード面の紹介
- 研修・勉強会の様子(専門性が伝わる)
配慮が必須になる題材
利用者本人が映るレクリエーションや食事風景は、応募者の心に響きやすい一方でもっとも配慮が求められる題材だ。本人または家族の同意なしに個人が特定できる形で公開しない、認知症のある方については判断能力への配慮も含めて家族の同意を丁寧に取る、といった手順を撮影前に必ず施設内で確認しておく必要がある。SNS運用に積極的な事業所の中には、投稿のたびに本人・家族へ個別に同意を確認する運用を徹底しているところもある。
私たちの撮影チームが現場で大事にしているのは、「カメラを意識させない自然体」を意識することだ。これは企業PR動画全般で心がけていることだが、高齢の利用者が過ごす介護施設ではなおのこと重要になる。目立たない場所にカメラを置き、いつも通りの時間が流れているところを撮ることで、不自然な“演出感”のない、信頼できる雰囲気の動画になりやすい。
無理なく続けるための
体制のつくり方

動画・SNS発信で失敗しやすいもう一つのパターンは、担当者を1人だけ決めて丸投げし、その人が忙しくなった瞬間に更新が止まることだ。介護現場は人手に余裕がないからこそ、最初から「専任担当を置く前提」で設計しないほうがうまくいく。
- スマートフォン1台と簡単な三脚だけで、シフトの合間に撮れる題材から始める
- 投稿は法人の公式アカウントに一本化し、複数人で交代しながら運用できる体制にする
- コメントや問い合わせには早めに、なるべく担当者本人の言葉で返信する
とくに3つ目のコメント対応は見落とされがちだが、応募を検討している人ほど、投稿への返信の丁寧さから「働く人を大事にする施設か」を読み取っている。派手な編集より、地道な更新と対応の積み重ねが効いてくる領域だ。
なお、動画にかける費用は最初から高額である必要はない。個人店・小規模店舗が動画にかけられる予算感で触れたように、まずはスマートフォン撮影で運用を始め、手応えが見えてきた段階で職員インタビューなど一部をプロに依頼する、という段階的な進め方でも十分成果は出せる。
よくある質問
Q. どれくらいの頻度で投稿すればいいか?
A. 週1本を目安に、無理なく続けられるペースから始めるのが現実的だ。更新が途切れる方が、更新頻度が低いことより印象を悪くしやすい。
Q. 利用者の顔を映さなくても採用効果はあるか?
A. ある。職員インタビューや施設の雰囲気、送迎車両や設備紹介だけでも、写真とテキストだけの求人票よりは働くイメージが格段に伝わりやすい。
Q. 建設業や美容室など、他業種でも採用動画の考え方は同じか?
A. 基本の考え方は近い。建設業の採用難は動画で変えられるかでも触れたとおり、業種を問わず「働く姿をそのまま見せる」ことが応募者の不安を減らす。ただし介護は利用者への配慮という業種特有の制約があるため、その線引きは事前に整理しておく必要がある。
まとめ
介護サービス職の有効求人倍率は3.70倍という高水準が続き、写真とテキストだけの求人票で選ばれるのは年々難しくなっている。一方で介護施設のSNS発信はまだ全体の2割弱にとどまり、取り組んでいる事業所の効果実感は急速に伸びている段階にある。今から始める施設にも十分な伸びしろがある領域だ。
大切なのは、いきなり利用者を主役にした動画を狙うのではなく、職員インタビューや施設の雰囲気など撮りやすいところから始め、利用者が映る題材については同意の取り方を先に施設内で決めておくことだ。採用動画とは何かで解説した基本を踏まえつつ、介護ならではの配慮を加えて設計するとよい。
次のステップとして、まずは自施設で「撮っていいもの」と「同意が必要なもの」を一度洗い出してみることをすすめる。そのうえで何から撮り始めるべきか迷う場合は、私たちのような制作者に相談してみるのも一つの方法だ。


































