
「顧問先を増やしたいが、派手な広告を打つわけにもいかない」——湘南で税理士や社労士、行政書士として事務所を構える人と話すと、こうした声をよく聞く。士業の看板は、結局のところ事務所と担当者本人の“人となり”だ。ホームページに顔写真とプロフィールを載せているだけで、動画にはまだ手が回っていない事務所は少なくない。
結論から言えば、士業事務所が最初に撮るべきは、派手な宣伝動画ではない。専門家本人が、よくある質問に短く答える一問一答形式の動画だ。編集も凝った演出も要らず、話す内容さえ決まれば1本あたり数分で撮り終えられる。
この記事では、税理士・社労士・行政書士といった士業事務所が動画発信を始めるときに何を撮ればいいか、逆に映してはいけないものは何か、そして無理なく続ける体制はどう作るかを、制作者としての現場感覚と一次情報から整理する。
- 結論:最初の1本は「専門家本人が短い質問に答える動画」から始めるのが現実的
- 事務所紹介やスタッフ紹介より、専門性が伝わる一問一答・セミナー切り抜きのほうが信頼構築に効きやすい
- 守秘義務・個人情報・広告表示のルールは、撮影前に必ず所属団体の規定で確認しておく
なぜ今、士業にも動画発信が
必要になっているのか
ICT総研が2026年7月に発表した「2026年度 SNS利用動向に関する調査」によると、2025年末時点の国内SNS利用者数は8,519万人(利用率79.7%)に達し、うちYouTubeの利用率は67.6%でLINEに次ぐ2位、満足度は77.7ポイントで調査対象の全サービス中最高だった。動画コンテンツを中心とするサービスが上位を占める結果になっている。
この数字が意味するのは、経営者や個人が情報収集の入り口として動画に触れる機会が、すでに特別なものではなくなっているということだ。士業もまた例外ではない。文章とプロフィール写真だけの事務所と、担当者が話す姿を見せている事務所とでは、初めて問い合わせる側の安心感に差が出やすくなっている。
とはいえ、士業に求められているのは知名度ではなく信頼だ。バズる動画ではなく、専門家としての受け答えが自然に伝わる動画のほうが、この業種には向いている。
士業事務所が最初に撮るべき動画は何か

専門家本人が答える一問一答
「相続の相談はいつからすればいいか」「就業規則の見直しはどのくらいの頻度が目安か」——顧問先や見込み客から実際に受けた質問を、そのまま1問1分程度で撮る。台本を丸暗記する必要はなく、いつも顧問先に答えているトーンのままでよい。むしろ多少言葉に詰まるくらいのほうが、実在する専門家として自然に映る。
セミナー・勉強会の切り抜き
すでに顧問先向けの勉強会やセミナーを行っている事務所であれば、その一部を撮影して切り出すだけで、新しく話す内容を考える負担なく動画が作れる。人前で説明している自然な様子は、収録専用に撮る動画よりも説得力を持つことが多い。
顧問先の声(許可を得たうえで)
「相談してから対応が早かった」「専門用語を噛み砕いて説明してくれた」といった顧問先の生の感想は、事務所側の言葉より説得力を持つ。ただし顧問先の業種や固有名詞が特定される内容は、本人の明確な同意なしに使わない。
以下に、この3種類の特徴と向いている用途を整理する。
| 種類 | 特徴 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| 一問一答 | 準備が軽く、短時間で撮れる | ホームページ・SNSでの継続発信 |
| セミナー切り抜き | 既存の活動から作れるが、収録前提の会場・機材調整が要る | 専門性・実績の裏付け |
| 顧問先の声 | 説得力は高いが、同意取得と編集の配慮が必要 | 問い合わせ直前の後押し |
映してはいけないもの——
撮影前に確認すべきこと

士業の動画で最も気をつけるべきは、守秘義務と個人情報だ。撮影の背景に顧問先の書類やパソコン画面が映り込む、打ち合わせスペースのホワイトボードに社名が残ったままになる、といったことは実務の現場では意外と起こりやすい。撮影前に「映る範囲に何が置かれているか」を必ず確認する工程を挟んでほしい。
もう一つ見落とされがちなのが、業務広告に関するルールだ。税理士・弁護士・社会保険労務士など多くの士業には、それぞれの法律・会則に基づく広告規制があり、誇大な表現や断定的な効果の主張は認められないことが多い。「必ず節税できる」「絶対に勝てる」といった言い切りは、動画であっても書面と同じ基準で扱われると考えたほうがよい。撮影台本ができた段階で、自身の所属団体の広告に関する規定を一度確認しておくと安心だ。
無理なく続けるための体制づくり

Mikatus株式会社(現freee株式会社)が2022年4〜5月に全国の会計事務所150件を対象に行った実態調査では、顧問先獲得のための工夫として「ホームページの改善」を挙げた事務所が43.0%にのぼった。動画そのものへの投資はまだ限定的だが、Web上での見え方に力を入れる事務所がすでに半数近くに達しているという事実は、次の一手として動画に注目が集まりやすい土壌があることを示している。
私たちが撮影現場で大切にしているのは、被写体にカメラを意識させすぎない自然体の撮り方だ。目立たない場所にカメラを置き、いつも話しているトーンのまま収録することを心がけている。士業の場合、この“構えなさ”がそのまま専門家としての誠実さの印象につながりやすいと感じている。
続けるコツは、月1本など無理のないペースを決めてしまうことだ。展示会・商談で効く会社紹介動画の作り方でも触れたとおり、対面の場で使い回せる動画を1本作っておくと、発信の負担を抑えながら商談の質も上げられる。
よくある質問
Q. 動画に出ることに抵抗があります。どうすればいいですか?
A. 無理に演じる必要はない。いつも顧問先に説明しているトーンのまま、短い質問に答える形から始めるのがすすめだ。1本目は公開せず社内で見返すだけにしても、慣れる練習になる。
Q. 撮影は自分たちでやるべきですか、外注すべきですか?
A. 一問一答のような短い動画はスマートフォンでの内製から始めても構わない。セミナー収録や複数人が登場する会社紹介動画のように、音声・照明の質が信頼感に直結する場面は、外注や機材貸し出しを検討したほうがよい。
Q. 顧問先医療機関やクリニックのような広告規制とは違うのですか?
A. 規制の中身は業種ごとに異なるが、「誇大・断定的な表現を避ける」という考え方は共通している。クリニック・治療院の動画集客で解説した医療広告ガイドラインの考え方は、士業が自分の業界のルールを確認する際の参考にもなる。
まとめ
SNS利用者の8割近くが動画を日常的に見る時代になり、士業事務所にとっても「顔の見える専門家」であることの価値は上がっている。とはいえ最初から凝った動画を目指す必要はない。専門家本人が短い質問に答える一問一答から始め、守秘義務と広告ルールを確認する工程さえ挟んでおけば、無理なく続けられる。
湘南で事務所を構える士業の人には、まず自分がこれまで顧問先から何度も聞かれた質問を3つ書き出すことをすすめたい。それがそのまま、最初の3本の台本になる。AI時代に人が関わる価値でも触れたように、AIが情報をまとめる時代だからこそ、専門家本人の言葉で語る動画の価値はむしろ高まっている。
次のステップとして、まずは撮りたい質問と、映してはいけない情報の範囲を言語化することからすすめたい。そこが整理できれば、撮影自体は難しい作業ではない。




















