
「動画で集客したい気持ちはあるが、医療広告のルールが厳しくて何を撮っていいか分からない」——湘南エリアのクリニックや整骨院・治療院の院長と話していると、この壁にぶつかっている人が多い。飲食店や美容室であれば撮って出しで良かった映像も、医療・施術の現場では同じようにはいかない。
結論から言えば、クリニック・治療院でも動画集客は使える。ただし「治療効果をアピールする動画」ではなく「来院前の不安をやわらげる動画」に狙いを絞る必要がある。ここを取り違えると、集客どころか広告規制に抵触するリスクを抱えることになる。
この記事では、患者側が医療機関の情報発信に何を求めているかを示す調査データと、クリニック・治療院それぞれに適用される広告規制という一次情報をもとに、規制の枠内で「効く動画」を作るための考え方を制作者の視点で解説する。
- 結論:クリニック・治療院の動画集客は「治療効果の訴求」ではなく「来院前の不安解消」に絞ると規制と両立しやすい
- 口コミサイト利用患者の87.6%が「医療機関がSNSで情報発信してくれると助かる」と回答している(カルー株式会社調査)
- クリニックは医療法の医療広告ガイドライン、整骨院・接骨院は柔道整復師法と、適用される規制の枠組みが異なる
患者は医療機関の動画発信を求めている——ただし見たい中身は「治療の宣伝」ではない
カルー株式会社が2024年5月1日〜14日に病院口コミ検索サイト利用者293名を対象に実施した調査によると、「医療機関がSNSで情報発信をしてくれると助かる」と回答した患者は87.6%にのぼる。発信を望むSNSはLINEが57.7%で最多、次いでYouTubeが51.8%と、動画メディアへの期待も高いことが分かる。
注目したいのは、同調査でYouTubeコンテンツとして最も興味を持たれているのが「病気・治療法の解説」で78.3%と突出している点だ。患者が動画に求めているのは、施術風景の華やかな演出ではなく「自分の症状や不安について、専門家がどう考えているか」という実用的な情報だと私たちは見ている。ここを押さえられれば、規制を過度に恐れなくても「求められている動画」は十分に作れる。
動画を作る前に知っておきたい規制の壁——クリニックと整骨院・治療院では枠組みが違う

ここが最も誤解されやすいポイントだが、「クリニック(医業・歯科医業)」と「整骨院・接骨院・治療院」では、動画・広告に適用される法律そのものが異なる。同じ「医療っぽい情報発信」でも、根拠となるルールが別物だと理解しておく必要がある。
クリニックには医療法にもとづく医療広告ガイドラインが適用される。厚生労働省が公開する「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書」は令和7年3月に第5版が作成されており、YouTube動画やSNS投稿における具体的なNG・OK事例が拡充されている。とりわけ「患者の体験談」を紹介すること自体が原則として禁止されている点は、動画企画の段階で見落としやすい。
一方、整骨院・接骨院・鍼灸院などの治療院は柔道整復師法などの規制対象で、広告できる事項(施術者の氏名・住所、施術所の名称・電話番号・所在地など)が限定的に列挙される仕組みになっている。医療広告ガイドラインとは条文の立て付けが異なるため、「クリニックはOKだったから治療院も同じでよい」という判断はできない。以下に、両者の違いを整理する。
| 区分 | 主な根拠法令 | 動画で特に注意したい点 |
|---|---|---|
| クリニック(医業・歯科医業) | 医療法・医療広告ガイドライン | 患者の体験談・ビフォーアフター・効果の保証表現は原則禁止 |
| 整骨院・接骨院・治療院 | 柔道整復師法など | 広告できる事項自体が限定列挙。範囲外の訴求は避ける |
どちらの立場でも共通するのは「疑わしい表現は事前に判断に迷わず確認する」姿勢だ。動画は一度公開すると拡散しやすい分、企画の段階で線引きを決めておくことが結果的に一番の近道になる。
規制の中で「効く動画」に絞り込む考え方

規制を踏まえると、クリニック・治療院の動画は「治療の効果を語る」のではなく「来院までの不安を減らす」ことに徹するのが安全かつ効果的だ。私たちが企画するときに軸にしているのは、次のような切り口である。
撮って発信しやすいテーマの例
- 院内・受付・待合室の雰囲気(初めての来院で一番不安なのは「どんな場所か分からないこと」)
- 院長・スタッフの人柄が伝わる自己紹介(治療内容ではなく、人となり)
- 予約から来院、受付までの流れの案内(初診のハードルを下げる)
- 一般的な症状の解説・セルフケアの豆知識(個別の治療結果に触れない範囲で)
逆に、施術中の患者の様子をそのまま見せる動画や、「こんなに良くなりました」という体験談的な演出は、たとえ患者本人の同意があっても医療広告ガイドライン上グレー〜アウトになりやすい。効果を語りたい気持ちをぐっとこらえ、「安心して来院できる」という一段手前の情報に絞ることが、結果的に規制と集客の両立につながる。
撮影の現場では、私たちはカメラの存在感をできるだけ消すことを意識している。目立たない場所にカメラを置き、スタッフや院内の雰囲気を過度に演出せず自然体で撮ることで、患者にとっても「作り込まれた宣伝」ではなく「実際の空気感」が伝わる動画になる——これは業種を問わず私たちが現場で大切にしている考え方だ。
短尺動画での見せ方という点では、業種は異なるが美容室・サロンがショート動画で新規客を増やすにはで扱った「宣伝色を抑えて日常を見せる」考え方が参考になる部分も多い。
湘南のクリニック・治療院が今日から始められる一歩

動画は検索エンジンだけでなく、AI検索(AIO)や地図アプリからも見つけられる時代になっている。動画がどのように見つけられるかという全体像はAI検索(AIO)時代に動画コンテンツはどう見つかるかでも解説しているので、あわせて参考にしてほしい。
まず取り組みやすいのは、院内・受付の雰囲気を1分程度で紹介する動画を1本作ることだ。治療効果に触れる必要がないため規制上の判断もしやすく、初診の患者が最も知りたい「どんな場所か」という不安に直接答えられる。多業界(呉服・不動産・アパレル・製造・教育など)で企画から撮影・編集まで手がけてきた経験から言えば、業界特有のルールを最初に整理してから撮影に入る案件ほど、後の修正が少なく済む傾向にある。
動画をどこに置くか迷う場合は、Googleビジネスプロフィールへの掲載やホームページへの埋め込みなど、活用先を先に整理しておくと企画がぶれない。作った動画、どこでどう使う?活用先マップ【完全版】も参考にしてほしい。
よくある質問
Q. 患者さんの「治って良かった」という声を動画で紹介してはいけないのか?
A. クリニック(医業・歯科医業)では、患者の体験談を広告として紹介すること自体が医療広告ガイドライン上原則禁止されている。整骨院・治療院でも効果を保証する内容は避けるべきで、体験談に頼らない企画に切り替えることをすすめる。
Q. 整骨院・接骨院はクリニックより規制がゆるいのか?
A. ゆるいわけではない。柔道整復師法では広告できる事項自体が限定列挙されており、枠組みが異なるだけで、範囲外の訴求ができない点は同様に注意が必要だ。
Q. 動画制作にどれくらいの本数から始めればいいか?
A. まずは院内紹介・スタッフ紹介など1〜2本で十分だ。規制上の線引きが明確な企画から着手し、反応を見ながら本数を増やしていくのが安全な進め方だ。
まとめ
カルー株式会社の調査が示すように、患者側は医療機関からのSNS・動画発信を望んでいる。一方で、クリニックには医療広告ガイドライン、整骨院・治療院には柔道整復師法という、それぞれ異なる規制の枠組みが存在する。この2つを踏まえたうえで「治療効果を語る動画」ではなく「来院前の不安を減らす動画」に狙いを絞れば、規制と集客は十分に両立できる、というのが私たちの見立てだ。
湘南エリアでクリニック・治療院を運営しているなら、まずは自院がどちらの規制の枠組みに属するのかを確認したうえで、院内紹介やスタッフ紹介といった「安心を伝える動画」から企画を言語化することをすすめる。
どこまでが表現できる範囲か迷ったときは、私たちのような制作者に一度相談してみてほしい。規制を踏まえた企画づくりから、無理のない範囲で一緒に考えていきたい。