
「動画を作ったほうがいいのは分かるが、クリニックが広告にお金をかけていいものか、正直よく分からない」——湘南でクリニックや治療院を経営している人と話すと、こういう本音を聞くことがある。飲食店や美容室と違い、患者に「選ばれる」ための発信には独特のためらいがつきまとう業種だ。
結論から言えば、クリニック・治療院の動画予算は「他業種より小さめに、しかし狙いを絞って」組むのが実態に近い。経営データを見る限り、クリニックの広告宣伝費はもともと売上に対する比率が低く、大きく張る業種ではない。一方で動画広告そのものの市場は伸び続けており、患者が受診前に動画で情報を集める流れは止まっていない。
この記事では、クリニックの広告宣伝費に関する経営データ、動画広告市場の最新統計、そして医療広告ガイドラインという3つの一次情報をもとに、湘南のクリニック・治療院がいくらまで動画にかけてよいのか、そして限られた予算をどこに振るべきかを、制作者の現場感覚で解説する。
- 結論:クリニックの広告宣伝費は売上の平均0.7%程度(医療法人)にとどまり、他業種より小さめの予算感が一般的
- 動画広告市場は2025年に推定開始以来初めて1兆円を突破しており、動画そのものへの追い風は強い
- 医療広告ガイドラインでビフォーアフターや比較優良表現は原則禁止のため、予算は「演出」より「発信できる内容の設計」に振るべきだ
クリニックの広告宣伝費は売上の0.7%
——他業種と比べた予算感

税理士事務所のnktaxが自社の顧客データを分析した「クリニック経営データ分析」によれば、個人事業のクリニックの広告宣伝費比率は売上に対して平均0.6%、医療法人では0.7%、全体では0.7%程度だった。診療科別に見ると、眼科が最も高く約1.0%、内科が最も低く約0.4%という結果も示されている。
この数字が意味するのは、年間売上5,000万円のクリニックなら、年間の広告宣伝費はおおよそ35万円前後が一つの目安になるということだ。これは、以前学習塾の動画制作費用相場で見た教育業種や、他の店舗業種と比べても控えめな水準だ。クリニックは「広告で呼び込む」より「口コミと立地で選ばれる」色がもともと強い業種であり、その経営体質が数字にも表れている。
だからといって動画に使う予算がゼロでよいわけではない。この0.7%という枠の中で、どこに振り分けるかの優先順位を考えることが、この記事の主題になる。
動画広告市場は2025年に「初の1兆円」
——クリニックにも追い風

電通が2026年3月5日に発表した「2025年 日本の広告費」によれば、2025年の総広告費は8兆623億円(前年比105.1%)となり、2021年から5年連続で成長し、4年連続で過去最高を更新した。インターネット広告費は4兆459億円(前年比110.8%)で初めて4兆円を超え、総広告費に占める構成比も50.2%と初めて過半数に達している。中でも動画(ビデオ)広告は前年比121.8%の1兆275億円となり、推定開始以来初めて1兆円を突破した。
この伸びを支えているのは、SNS上の縦型動画広告やコネクテッドTVといった、生活者が日常的に触れる動画接点の拡大だ。患者やその家族が受診先を選ぶ前に、まずスマートフォンで動画を見て比較検討する——という行動は、もはや特殊なことではなくなっている。
ただし、クリニックがこの市場の伸びをそのまま自分たちの広告費増加に結びつける必要はない。重要なのは「広告費を増やす」ことではなく、限られた0.7%の枠の中で、動画という手段の優先度を上げることだ。
「原則禁止」の中で何を撮るか
——医療広告ガイドラインが引く線

厚生労働省が定める医療広告ガイドライン(「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針」)は、ウェブサイトやSNSに載せる動画コンテンツも広告規制の対象になり得ると位置づけている。他院との比較優良表現や、治療の効果を示すビフォーアフター画像・動画の無条件掲載は、原則として禁止されている項目だ。
詳細な自由診療の情報を載せたい場合には「限定解除」という要件を満たす必要があり、連絡先の明示に加えて、費用やリスク・副作用の併記が求められる。つまり、派手な演出やビフォーアフターに費用をかけるほど、表現のチェックや説明責任のコストも増えていく構造になっている。医療広告ガイドライン改正が続く理由で詳しく触れているので、あわせて参考にしてほしい。
私たちが撮影現場で大切にしているのは、被写体にカメラを意識させすぎない自然体の撮影だ。スタッフの日常の対応や、院長が患者に語りかける様子をありのままに近い温度感で撮る動画は、演出コストを抑えられるうえ、規制上のグレーゾーンにも触れにくい。派手な効果を狙うより、こうした等身大の信頼感に予算を振るほうが、クリニックには合理的だ。
何にいくらかける?
クリニック動画の費用配分の目安
以下に、私たちが現場で提案することの多い動画の種類と、費用感の目安を整理する。
| 種類 | 狙い | 費用相場 |
|---|---|---|
| スタッフ紹介・院内の雰囲気動画 | 通院前の不安を減らし、スタッフの人柄を伝える | 5万〜15万円 |
| 院長・スタッフインタビュー動画 | 診療方針や人柄を語り、信頼を積み重ねる | 20万〜40万円 |
| クリニック紹介動画(ホームページ用) | 立地・設備・スタッフを総合的に紹介する | 30万〜60万円 |
| SNSショート動画(継続運用) | 日常の様子を継続発信し、想起の頻度を上げる | 月3万〜8万円程度 |
表の中で優先度が高いのは、スタッフ紹介とインタビュー動画の2つだ。クリニックは「誰が診るか」への関心が高い業種であり、設備の豪華さよりも人柄が伝わる映像のほうが、比較段階での差別化に直結しやすい。まずはクリニック・治療院の動画集客で紹介した始め方と合わせて、低予算のSNS発信から着手するのが現実的だ。
よくある質問
Q. クリニックの動画制作費用はいくらから始められますか?
A. スタッフ紹介やSNSショート動画中心なら5万〜15万円程度から始められる。院長インタビューを含む本格的なクリニック紹介動画は30万〜60万円程度が目安だ。まずは低予算のSNS発信から始め、反応を見ながら投資を広げる進め方が現実的だ。
Q. 患者のビフォーアフターは動画で使えますか?
A. 医療広告ガイドライン上、治療の効果に関するビフォーアフター画像・動画の無条件掲載は原則禁止されている。使う場合は限定解除の要件(費用やリスクの併記など)を満たす必要があり、慎重な設計が求められる。
Q. 広告宣伝費はどれくらいが目安ですか?
A. 経営データ分析では、クリニックの広告宣伝費は売上の平均0.7%程度(医療法人)とされている。診療科によって差があり、眼科などで比較的高め、内科などで低めの傾向がある。動画の予算もこの枠の中で考えるのが現実的だ。
まとめ
クリニック・治療院の動画予算は、他業種のように大きく振れる性質のものではない。経営データが示す通り、広告宣伝費はもともと売上の0.7%前後という慎重な枠の中にある。
だからこそ、派手な演出やビフォーアフターに費用を割くより、スタッフ紹介や院長の人柄が伝わる自然体の動画から始めることをすすめる。医療広告ガイドラインの制約の中でも、等身大の信頼感を伝える動画であれば、無理なく続けられるはずだ。
次のステップとして、まずは自院の広告宣伝費の中で動画にどれだけ振り分けられるかを言語化することをすすめる。そこが決まれば、どの種類の動画から手をつけるべきかは自然と見えてくるはずだ。