
「動画を作りたいのはやまやまだが、予算が厳しい。補助金でなんとかならないか」——平塚・大磯エリアの事業者から相談を受けるとき、この質問はかなりの頻度で出てくる。SNS用のショート動画でも、会社紹介動画でも、外注すれば数十万円単位の費用がかかるだけに、気持ちはよくわかる。
結論から言えば、「動画制作」そのものをうたった専用の補助金は存在しない。だが、いくつかの既存の補助金制度には、条件付きで動画制作費を組み込める経費区分がある。逆に言えば、制度の対象経費区分を正しく理解せずに申請すると、動画制作費だけを理由に不採択・減額になることもある。
この記事では、動画制作費が組み込める代表的な補助金制度を、対象になる条件・上限額・注意点とあわせて、制作者の視点から整理する。
- 結論:「動画制作補助金」という単独の制度は無い。既存制度の経費区分に組み込めるかどうかで判断する
- 最も現実的なのは小規模事業者持続化補助金の「ウェブサイト関連費」区分。ただし上限があり単独申請は不可
- デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)やものづくり補助金は、国内向けの動画外注費には原則使えない
動画制作向けの補助金は存在するか——結論と全体像
まず前提を整理しておきたい。国や自治体が「動画制作」という支出そのものを名指しで補助する制度は、調べた範囲では見当たらない。存在するのは、販路開拓や生産性向上、デジタル化といった別の目的を持つ補助金の中に、「広報費」「ウェブサイト関連費」といった経費区分があり、その枠の中に動画制作費を計上できるケースがある、という構造だ。
代表的な3つの制度について、動画制作費の位置づけと上限を以下に整理する。
| 制度名 | 動画制作費の位置づけ | 経費区分の上限 | 補助率 |
|---|---|---|---|
| 小規模事業者持続化補助金 <一般型・通常枠> |
「ウェブサイト関連費」として計上可(単独申請は不可) | 交付申請額の1/4以内・上限50万円 | 2/3(赤字事業者は3/4) |
| デジタル化・AI導入補助金2026 (旧IT導入補助金) |
動画の外注制作費は対象外。事務局に登録されたITツール(ソフト・サービス)の導入費が対象 | 枠・ツールにより異なる | 枠・ツールにより異なる |
| ものづくり補助金 (グローバル枠) |
海外販路開拓向けのPR動画に限り「広告宣伝・販売促進費」として計上可(国内向けは対象外) | 最新の公募要領で要確認 | 枠により異なる |
表からわかる通り、動画制作費を最も組み込みやすいのは小規模事業者持続化補助金だ。次の章で、この制度の条件を具体的に見ていく。
小規模事業者持続化補助金——動画は「ウェブサイト関連費」で申請する

小規模事業者持続化補助金は、商業・サービス業なら従業員5人以下、製造業その他・宿泊娯楽業なら20人以下の小規模事業者を対象にした、販路開拓の取り組みを支援する制度だ。中小企業庁が2026年5月に公開した<一般型・通常枠>第20回の公募要領によれば、補助上限は50万円、補助率は2/3(赤字事業者は3/4)で、インボイス特例や賃金引上げ特例を併用すると上限は最大250万円まで引き上がる。
動画制作費はこの制度の中で、単独の経費区分ではなく「ウェブサイト関連費」に計上する形になる。小規模事業者持続化補助金事務局が公開している経費区分の説明では、ウェブサイト関連費は交付申請額の1/4以内、かつ上限50万円までと定められている。つまり通常枠の上限50万円だけで申請する場合、動画制作費として使える実質的な上限は12万5000円程度にとどまる計算になる。特例を併用して申請額を引き上げれば、その分ウェブサイト関連費の上限も上がる仕組みだ。
さらに重要な制約がある。事務局の案内では「ウェブサイト関連費のみによる申請はできない」「経費がウェブサイト関連費のみになった場合は不採択となる」と明記されている。つまり動画制作費だけを目的に申請することはできず、機械装置等費や広報費など他の経費区分と組み合わせて、販路開拓の取り組み全体として申請する必要がある。私たちの現場感覚で言えば、この「単独では通らない」というルールを知らずに動画予算だけを補助金でまかなおうとして計画が狂うケースは、決して珍しくないはずだ。
デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)は動画の外注費に使えない
「IT導入補助金なら動画も対象になるのでは」という相談も多いが、これは誤解であることが多い。同制度は2026年度に「デジタル化・AI導入補助金2026」へと名称・制度設計が変わっており、補助の対象になるのは事務局に事前登録された特定のITツール(ソフトウェア・サービス等)の導入費用、およびクラウドサービス利用料や導入サポート費用に限られる。
つまり補助されるのは「デジタル化・業務効率化に資するツールを導入する費用」であって、動画の撮影・編集を制作会社に依頼する外注費そのものは、この制度の対象にはならない。動画編集ソフトのような特定のソフトウェアが対象ツールとして登録されているかどうかは年度ごとに変わるため、使えるかを知りたい場合は公式のITツール検索データベースで個別に確認する必要がある。制作を外部に発注する湘南の事業者にとっては、この制度が動画制作費の直接の資金源になる場面は限定的だと考えたほうがいい。
ものづくり補助金は「海外向け」に限られる

ものづくり補助金は、新製品・新サービス開発や生産性向上のための設備投資を主対象にした制度で、機械装置費やシステム構築費、専門家経費などが中心になる。動画制作費が入り込む余地があるのは、海外市場開拓を目的とした「グローバル枠」に限られる。この枠では、海外販路開拓のためのPR動画やパンフレット制作費を「広告宣伝・販売促進費」として計上できるとされている。
逆に言えば、国内向けの会社紹介動画や採用動画、SNS用ショート動画といった、湘南の中小企業が実際によく相談してくる用途の多くは、この枠の対象外になる。海外展開を伴わない動画制作を、ものづくり補助金でまかなおうとするのは筋が悪い。補助率や経費ごとの上限は枠・年度の公募要領によって細かく定められているため、具体的な適用可否と金額は必ず最新の公募要領で確認してほしい。
動画制作そのものの費用相場については別記事「動画制作の費用相場【完全ガイド】」で種類別・尺別に整理しているので、まずは自己資金でどこまでの規模感が現実的かを確認しておくことをすすめる。内製と外注のどちらが得かで悩んでいる場合は「動画制作は内製と外注どちらが得か?判断基準と費用比較」も参考になるはずだ。
申請前に確認したい5つのポイント
補助金ありきで動画制作を計画すると、採択されなかった場合に計画そのものが崩れる。私たちが相談を受ける際にまず確認をすすめているのは、次の5点だ。
- 動画制作費が、狙っている制度のどの経費区分に該当するかを公募要領で確認する
- その経費区分が単独申請不可など、組み合わせの制約を持っていないか確認する
- 商工会議所・商工会や認定支援機関に、申請前に一度相談する
- 公募のスケジュール(受付期間・様式発行締切)を確認し、逆算で制作スケジュールを組む
- 補助金は原則後払いであることを踏まえ、自己資金で実施できる規模から計画する
特に最後の点は見落とされがちだ。補助金は採択・交付決定を経て、事業完了後の実績報告を経てはじめて支払われる後払いが原則になる。「補助金が出る前提」で動画制作会社と契約し、資金繰りに詰まる事業者を現場では何度か見てきた。自己資金での実施を前提にしたうえで、採択されれば負担が軽くなる、くらいの位置づけで考えるのが安全だ。
よくある質問
Q. 動画制作費だけで補助金を申請できるか?
A. できない。小規模事業者持続化補助金の場合、動画制作費を計上する「ウェブサイト関連費」は単独申請が認められておらず、他の経費区分と組み合わせて申請する必要がある。
Q. 個人事業主でも申請できるか?
A. できる。小規模事業者持続化補助金は法人に限らず、従業員数などの要件を満たす個人事業主の小規模事業者も対象にしている。
Q. 補助金が採択される前提で動画制作会社と契約してよいか?
A. 避けたほうがよい。補助金は原則後払いで、採択・交付決定が確定するまで支給されない。自己資金で実施できる規模を前提に契約し、補助金は結果として負担を軽くするものと考えるのが安全だ。
まとめ
「動画制作専用」の補助金は存在しないが、小規模事業者持続化補助金の「ウェブサイト関連費」のように、条件を満たせば動画制作費を組み込める経費区分は現実にある。ただし上限額も低く、単独では申請できないという制約も強い。
湘南の事業者にとって大事なのは、補助金ありきで動画の企画を組むのではなく、まず自社の動画で何を実現したいのかを言語化し、そのうえでどの制度のどの経費区分に当てはまるのかを確認する順番を守ることだ。
その言語化や経費区分の切り分けの段階からで構わないので、商工会議所・認定支援機関や、私たちのような制作者に一度相談してみることをすすめる。使える制度があるかどうかだけでも、早めに整理しておく価値はある。