
生成AIで動画を作る現場が、この一年で明らかに増えた。
私たちが動画制作の相談を受ける中でも、「AIでラフを作ってから発注したい」「BGMやテロップをAIツールで作れないか」という声を聞く機会が増えている。
結論から言えば、生成AIを動画制作に取り入れること自体は問題ない。ただし、著作権をめぐるルールと最近の国内の動きを知らないまま使うと、思わぬトラブルに発展しかねない。
この記事では、文化庁が示す生成AIと著作権の考え方、2025年から2026年にかけて大きな話題になった動画生成AI「Sora 2」を巡る国内団体の対応、そして湘南の事業者が実務でおさえておきたい注意点を整理する。
- 画像・動画系の生成AIを「導入済み・試験導入中」とする企業は21.9%(JUAS調査・2024年度)まで伸びており、動画制作の現場にもAI活用は広がっている
- 文化庁は「開発・学習段階」と「生成・利用段階」で著作権法の適用が異なるとしており、生成物が既存作品と似ていれば侵害になり得る
- 2025年秋に始まった動画生成AI「Sora2」を巡る著作権紛争は、権利者団体との協議を経て2026年3月にサービス終了という結果に至った
- 湘南の事業者が動画にAIを使う際は「学習データの出どころ」「利用規約」「人が確認する工程」の3点を発注前に確認するのが実務上の目安になる
動画制作の現場にどこまでAIが入ってきているか
私たちが日々受ける相談の変化からも、生成AIの浸透は実感できる。
一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2025」(2025年2月公表、2024年度調査、回答981社)によると、画像・動画系の生成AIを「導入済み」または「試験導入中・導入準備中」と回答した企業は21.9%(実導入7.0%+試験導入中14.9%)に達した。言語系生成AI(26.9%→41.2%)ほどの急伸ではないものの、動画分野でもAI活用が着実に進んでいることを示す数字だ。
現場感覚としても、絵コンテのラフ画像やBGM、字幕の自動生成にAIを併用する事業者は増えている。ただし「AI活用」の中身を分解すると、リスクの高さは工程によって大きく異なる。素材のたたき台を作る段階と、出来上がった映像を公開する段階とでは、注意すべきポイントがまったく違うということを、次の項で整理する。
文化庁が示す「AIと著作権に関する考え方」の要点
生成AIと著作権の関係について、日本には既に公式の指針がある。文化庁の文化審議会著作権分科会法制度小委員会は2024年3月15日、「AIと著作権に関する考え方について」を取りまとめて公表した。
この考え方は、AIが関わる場面を「開発・学習段階」と「生成・利用段階」に分けているのが特徴だ。以下に段階別のポイントを整理する。
| 段階 | 主に関わる考え方 | 実務での注意点 |
|---|---|---|
| 開発・学習段階 | 著作権法30条の4(非享受目的の利用) | 学習データの収集自体は比較的広く認められる |
| 生成・利用段階 | 類似性・依拠性の有無 | 既存作品に似ていれば侵害になり得る。公開前に人が確認する |
つまり、AIで作ったから自動的に安全というわけではない。出来上がった動画やカット画像が既存の作品と似ていないかは、人が確認する必要があるということだ。文化庁は2024年7月31日には、開発者・提供者・利用者・権利者それぞれの立場ごとに取るべき対応を整理した「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」も公表している。
「似ている」かどうかは誰が判断するのか
実務上悩ましいのは、生成物が既存作品に「似ている」かどうかの線引きだ。文化庁の考え方でも明確な数値基準は示されておらず、個別の事案ごとに判断される。私たちが動画制作の現場で意識しているのは、既存の有名なキャラクターやブランドの画像を参照させるような指示(プロンプト)は避け、生成物を人の目でチェックする工程を必ず挟むということだ。これは、以前まとめたAI動画生成ツールの現在地と、人が撮る映像の価値でも触れた「人が関わる価値」そのものでもある。

動画生成AI「Sora 2」を巡る争いが示した決着のかたち
著作権の議論が一気に注目を集めたのが、2025年秋から2026年春にかけての「Sora 2」を巡る動きだ。OpenAI社は2025年9月30日に映像生成サービス「Sora 2」の提供を始めたが、日本の既存アニメーションやキャラクターに酷似した映像が、権利者の許諾なく多数生成される事態が起きた。
これを受け、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)は2025年10月27日、OpenAI社へ要望書を提出した。要望は「CODA会員社のコンテンツを無許諾で学習対象としないこと」「生成物に関する著作権侵害の申立てに真摯に対応すること」の2点。CODAは、日本の著作権制度が原則として利用前の許諾を前提としているのに対し、OpenAI社が採用した事後的な「オプトアウト方式」ではその原則に対応できないと指摘した。
その後の協議を経て、2026年3月27日、OpenAI社はCODAに対し、Sora 2をアプリ・APIを含むプロダクトとして終了する旨を報告した。CODAは「ひとつの区切り」としながらも、他の事業者による類似サービスの提供は続いており著作権侵害のリスクは依然存在するとして、2026年度から生成AIサービスの実態調査を本格化させる方針を示している。
湘南の事業者にとってこの一連の出来事が直接関わることは少ないだろう。しかし、海外の大手プラットフォームでさえ権利者団体との協議の末にサービス終了という結論に至った例がある以上、「有名なプラットフォームだから安全」とは言えないことがよく分かる。自社で使う生成AIツールの利用規約や学習データの扱いは、発注前に一度確認しておくことをすすめる。
湘南の事業者が動画にAIを使うときに実務で気をつけたいこと
ここまでの内容を踏まえ、私たちが動画制作の現場でAIを使う際に実際に確認していることを、実務目線で整理する。

- その生成AIツールがどのようなデータを学習に使っているか(利用規約・提供元の説明)を確認する
- 生成物を公開前に必ず人の目で確認し、既存の有名な作品・キャラクター・ロゴに似ていないかをチェックする
- 商用利用が許可されているプランか、生成物の著作権の扱いがどうなっているかを利用規約で確認する
- AIが作ったラフ素材は「たたき台」とし、最終的な編集・構成には必ず人の手を加える
- クライアントへの納品物にAIを使った部分がある場合は、事前にその範囲を共有しておく
工務店の採用動画で背景イラストをAIに作らせる場合も、飲食店のメニュー紹介動画でBGMを自動生成する場合も、美容サロンのショート動画でテロップやカット編集を自動化する場合も、基本的な確認事項は変わらない。「AIが作った」で終わらせず、「人が確認した」工程を必ず一段加えることが、これからの動画制作の基本姿勢になるはずだ。発注前に確認しておきたい項目は、動画制作の発注前に確認したい7つのチェックリストにも整理してある。

よくある質問
Q. AIが生成した動画に著作権は発生しますか?
A. 文化庁の考え方では、AIが自律的に生成しただけの映像は人の「思想または感情の創作的表現」とは言えず、基本的に著作物にはあたらないとされている。人が構成や編集など創作的な工程を加えれば、その部分に著作権が生じ得る。
Q. 既存のアニメやキャラクターに似た画像をAIで作って自社動画に使ってもよいですか?
A. 生成物が既存作品と「似ている」(類似性)かつ「それを参照して作られた」(依拠性)と判断されれば、著作権侵害になり得る。似せることを意図したプロンプトは避け、公開前に人の目で確認することをすすめる。
Q. 社内資料など、外部に公開しない動画であれば気にしなくてよいですか?
A. 私的・社内限定の利用であればリスクは下がるが、ゼロにはならない。特に採用動画やSNS発信など外部公開を前提とする動画では、公開前のチェック工程を省かないほうがよい。
Q. Sora2のような海外の動画生成AIは、日本の事業者が使っても問題ないですか?
A. サービスの利用自体を禁じる法律はないが、2025年から2026年にかけてのCODAとOpenAI社の一件が示すように、権利者側との摩擦が続きやすい分野だ。利用規約や学習データの扱いを確認し、生成物のチェックを怠らないことが重要だ。
まとめ
生成AIによる動画制作は、もう一部の先進的な事業者だけの話ではない。JUASの調査が示すとおり、画像・動画系AIの導入は着実に広がっている。
一方で、文化庁の考え方や2025年から2026年のSora 2問題が示すように、著作権のルールは依然として発展途中にある分野だ。「AIが作ったから安全」でも「AIだから危険」でもなく、生成物を人が確認する工程をどう組み込むかが実務上の分岐点になる。
次のステップとしては、まず自社が使っている(あるいは使おうとしている)生成AIツールの利用規約と学習データの扱いを一度確認し、公開前チェックの担当者を決めておくことをすすめる。動画にAIをどう取り入れるべきか迷う場合は、私たちのような制作者に相談してみてほしい。
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