観光DXと地域PR動画の潮流|湘南の事業者が押さえるべき変化

湘南の海岸沿いの町並みを俯瞰で捉えたドローン視点の風景

観光協会や商店会の集まりで「うちの地域も動画で盛り上げたいが、観光DXという言葉が先行していて何から手をつければいいのか分からない」という声を聞く機会が増えている。

結論から言えば、観光庁が進める観光DXの本丸は予約・決済システムやデータ分析だが、その手前にある「地域の魅力をどう伝え、見つけてもらうか」という入り口の部分で、動画コンテンツの重要性はむしろ増す一方だ。

この記事では、観光庁が掲げる観光DXの狙い、実際に拡散した自治体PR動画の一次データ、そして訪日外国人が動画をどれだけ情報源として頼っているかを一次情報で押さえたうえで、湘南の事業者が観光DXの流れをどう自分ごと化できるかを、制作者の現場感覚も交えて解説する。

  • 結論:観光庁の観光DXは予約・データ基盤の整備が中心だが、その手前で「見つけてもらう」入り口を担うのは地域PR動画である
  • 訪日外国人が出発前に役立った情報源は「動画サイト」21.4%で、SNS(21.9%)や親族・知人(22.8%)に迫る規模(JNTO調査・2023年時点)
  • 北九州市のPR動画「COME ON!関門!」は公開から2年余りで再生1億回を突破しており、地域PR動画の拡散力は自治体規模でも実証済み

観光DXの本丸はデータ基盤、その入り口を担うのが動画

動画を起点に予約・データ活用へつながる観光DXの流れを示すフラットイラスト

観光庁は「持続可能な観光地域づくり戦略」のなかで観光DXの推進を掲げ、その目的を「旅行者の利便性向上及び周遊促進、観光産業の生産性向上、観光地経営の高度化」と説明している。具体的には、宿泊や体験の予約・決済をシームレスに行える地域サイトの構築、DMOにおける「旅マエ・旅ナカ・旅アト」のデータ分析、地域単位でのレベニューマネジメントの推進などが柱になっている。

これらは主に予約システムやデータ基盤の整備であり、動画そのものが観光DXの中心施策として名指しされているわけではない。ただし、私たちが現場で見ている限り、こうした基盤がどれだけ整っても、旅行者がその地域を「知り」「行きたい」と思う最初のきっかけがなければ、そもそも予約サイトにたどり着かない。観光DXが整える「受け皿」の手前にある「発見される入り口」を担っているのが、地域PR動画だと私たちは捉えている。観光・地域PR動画そのものの作り方については観光・地域PR動画とは?人を呼び込む映像の作り方で解説しているので、あわせて読んでほしい。

地域PR動画は本当に拡散するのか——北九州市の事例に見る規模感

地域PR動画の拡散力を示す実例として、北九州市・下関市が制作した関門海峡PRムービー「COME ON!関門!」がある。2017年3月に公開されたこの動画は、北九州市の発表によれば2019年7月7日時点で再生回数が100,088,455回に達し、「1億回」を突破した。英語のセリフを中心に据え、「関門」という地名をとにかく知ってもらうことに絞り込んだシンプルな構成が特徴で、その後多言語版を含めて再生回数はさらに伸びている。

1本の地域PR動画が多言語・多地域へ拡散する様子を示すフラットイラスト

以下に、この事例の推移を整理する。

確認時点 累計再生回数 主な特徴
2019年7月7日時点 約1億回 単一言語(英語セリフ中心)で「関門」の認知に特化
2022年6月時点 約4億回 6言語版の合計。日本語・英語・タイ語・韓国語・繁體中文・簡体中文に展開

数字の規模は自治体の投下予算や偶発的なバイラルの要素も大きく、そのまま中小の事業者や観光協会に当てはまるわけではない。ただし「メッセージを一つに絞り込む」「余力に応じて多言語で展開の余地を残す」という設計の考え方自体は、湘南のような地域でPR動画を作るときにも参考になる視点だと私たちは考える。

訪日外国人にとって動画は情報源としてどれだけ重要か

JNTO(日本政府観光局)がまとめた訪日旅行の実態データでは、訪日外国人が出発前に役立ったと答えた情報源として、「日本在住の親族・知人」が22.8%、「SNS」が21.9%、「動画サイト」が21.4%という結果が出ている(2023年時点)。動画サイトは、個人のブログや従来型の旅行ガイドブックと肩を並べるか、それ以上に重要な情報源になっている計算だ。

この数字が示すのは、観光DXがどれだけ予約や決済の仕組みを整えても、その手前で「動画を見て行きたいと思う」きっかけ自体は、口コミやSNSと並ぶ比重で動画に委ねられているということだ。地域の宿泊施設や飲食店にとっても、自社の魅力を映像で発信することは、観光DXの恩恵を受け取るための前提条件になりつつある。SNSでの集客の考え方については湘南・大磯のSNS集客術|地域ブランドで選ばれる中小企業になる方法でも詳しく取り上げている。

湘南の事業者は観光DXの流れをどう自分ごと化するか

湘南の宿の入り口をミラーレスカメラで撮影するビデオグラファー

では湘南のような、北九州市規模の予算を持たない地域の事業者や観光協会は、この流れにどう向き合えばよいのか。私たちが撮影で大切にしているのは、作り込みすぎた宣伝映像よりも、現場の自然な空気をそのまま拾うことだ。カメラの存在をできるだけ意識させない場所に置き、スタッフに自然体でいてもらうことを心がけている——これは私たちの現場感覚として、美容室の撮影でも観光・地域PRの撮影でも変わらない考え方だ。

具体的には、観光協会が地域の祭りや商店街の日常風景を撮る場合も、旅館やゲストハウスが宿の朝の空気を撮る場合も、飲食店が仕込みの様子を撮る場合も、「見せたいものを作り込む」よりも「そこにある本物の空気を撮る」ほうが、結果的に見る人の心に残りやすいというのが私たちの現場感覚だ。

地域PR動画を作るときにまず押さえておきたいのは次の3点だ。

  1. 伝えたいメッセージを一つに絞り込む(欲張って詰め込まない)
  2. 誰に見てもらいたいか(観光客なのか、移住検討者なのか)を先に決める
  3. YouTubeやSNSへの投稿後、自社サイトや観光協会のページにも同じ動画を置き、文字情報を添えて検索・AI経由でも見つけてもらえるようにする

この「文字情報を添えて見つけてもらう」という視点はAI検索(AIO)時代に動画コンテンツはどう見つけられるか|湘南版でも詳しく解説している。

よくある質問

Q. 観光DXと地域PR動画は同じものか?

A. 同じではない。観光DXは主に予約・決済システムやデータ分析による観光地経営の高度化を指す施策で、地域PR動画はその手前にある「知ってもらう・行きたいと思ってもらう」入り口を担うコンテンツだ。両者は補完関係にある。

Q. 地域PR動画はどのくらいの規模の事業者でも効果があるのか?

A. 北九州市の事例のような数億回再生は自治体規模の予算とバイラル要素があってこそだが、メッセージを一つに絞り込む・自然な現場の空気を撮るという設計の考え方は、規模を問わず地域の小さな事業者にも応用できる。

Q. 訪日外国人向けに動画を作る場合、何語で用意すべきか?

A. 必ずしも多言語版を最初から揃える必要はない。まずは日本語で「その地域・その店にしかない魅力」を自然な形で撮り、余力があれば主要言語の字幕を足していく順番で十分だ。

Q. 動画を作った後、観光DXの恩恵をどう受け取ればよいか?

A. 動画をYouTubeやSNSに置くだけでなく、自社サイトや観光協会のページにも同じ動画と文字による要約を併記しておくことをすすめる。検索エンジンやAI検索からも見つけてもらいやすくなり、観光DXが整備する予約・情報基盤ともつながりやすくなる。

まとめ

観光庁が進める観光DXの中心は予約・決済システムやデータ分析による観光地経営の高度化だが、そうした基盤が整っても、旅行者がその地域を「知り」「行きたい」と思う入り口がなければ意味を持たない。

北九州市のPR動画が公開から2年余りで再生1億回を超えた事例や、訪日外国人の2割超が動画サイトを出発前の情報源として挙げているデータは、地域PR動画がその入り口として無視できない存在であることを示している。

湘南の事業者にとっても、作り込みすぎない現場の空気を撮り、メッセージを一つに絞り込み、文字情報を添えて発信することが、観光DXの流れに乗るための現実的な一歩になる。まずは自分たちの地域・お店の「一番伝えたいこと」を一つに絞り込むことから始めてみてほしい。どこから手をつければいいか迷ったときは、私たちのような制作者に一度相談してみることをすすめる。