天候さえよければ、いつ訪れても“いい画”になる。日本の海水浴場発祥の渚は、時間帯ごとにまったく違う表情を見せる。
相模湾にゆるやかな弧を描いて開ける、大磯海岸。晴れた日には水平線の向こうに富士や箱根、伊豆半島の稜線が浮かび、波打ち際には玉石と砂がまじる独特の質感が広がります。派手な観光施設に頼らずとも、海と空と光だけで画になる——天候さえよければ、ほとんど“ハズレ”のない稀有なロケーションです。
そしてこの海岸の何よりの魅力は、時間帯によって表情がまるで変わること。同じ渚が、朝は澄んだ静けさを、昼はきらめきを、夕は黄金の逆光を、夜は青い燐光をまとう。だからこそ、狙う時間に合わせてシネマティックな演出を組み立てられます。
朝。順光に澄んだ空気、遠くに富士。静かで清潔なトーンは、企業のブランドムービーやドキュメンタリーの導入によく合います。
昼。高い陽が水面で無数にきらめき、ハイキーで抜けのいい画に。躍動感やさわやかさを出したいシーンに。
夕。黄金色の逆光が波を透かし、人物はシルエットに。ドラマチックでエモーショナルな一枚は、MVやストーリー性のある映像の主役になります。
夜。そして季節と条件がそろった夜、波打ち際が青く発光する——夜光虫。湘南の夜だけに現れる、Mireyesの原点でもある光です。
大磯海岸は、日本で最初の海水浴場が開かれた地として知られます。明治18年(1885年)、初代陸軍軍医総監・松本順(良順)が、健康増進の手段として海水浴の効用を説き、大磯の海岸にその場を開きました。厳密には、現在の海水浴場(北浜海岸)ではなく、西隣の岩礁・照ヶ崎海岸が発祥とされています。
松本は評判を広めるため、当時の人気歌舞伎役者たちを大磯へ招いて逗留させたと伝わります。やがて政財界人や文化人の別荘が次々と建ち、大磯が保養地として栄えたのも、この海水浴場があったからこそでした。海岸沿いには「海水浴場発祥地」の碑と、松本の功績をたたえる「松本先生謝恩碑」が今も残ります。
もうひとつ、大磯を象徴するのがアオバト。初夏から秋にかけて、山から照ヶ崎の岩礁へ海水を飲みに群れで飛来する珍しい光景で、県の天然記念物に指定され、全国から野鳥カメラマンが集まります。
京極夏彦の百鬼夜行シリーズ第九弾『邪魅の雫』は、この大磯・平塚を舞台にした一作。物語は、大磯海岸で見つかる変死体を発端に幕を開けます。昼の明るさの裏に、湿度をはらんだ翳りを併せ持つ——大磯の海は、そんな二面性の似合う場所です。
同じ大磯には、本作ゆかりの〈愛宕神社脇の切り通し〉もあります。海と隧道、光と陰。あわせて巡ると、作品世界の奥行きがいっそう深まります。
湘南で撮り続けてきた私たちが、時間帯と天候を味方につけるためのヒントです。
朝の順光は清潔感、夕の逆光はドラマ。曇天も水面がマットになり静かな画に。晴れの日は富士が入る北西方向を意識。
大胆に取った水平線と対称構図で開放感を。人物を小さく置くと海のスケールと余白が生きます。
寄せ引きに合わせたスロー、ジンバルで渚を並走。夜光虫は三脚固定の長回しで、青い光の明滅をじっくり。
環境音(波・風・砂利を踏む音)だけで空気が決まります。BGMは足しすぎず、余白を残すほど画が締まります。
大磯駅から南へ。大磯港を挟んで東が北浜海岸(海水浴場)、西の岩礁が照ヶ崎海岸(アオバト飛来地)です。Googleマップで開く
大磯・平塚・湘南のロケーションを知り尽くした映像制作。朝も夜も、天候に合わせて最適な一本を。ロケハンから撮影・編集まで一貫して承ります。
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